右も左もわからない
地元川越の会社に転職した私は、スポーツクラブも当然地元のに通うことに。どっぷり地元に埋没する日々。さらば東京のOL生活。
新しく入ったジムはスタジオプログラムが充実しているので、さっそく参加してみることにした。というより前のジムが非営利の組合運営だったせいか、スタジオプログラムがひどく貧相で数も参加者も少なく、私は参加したことがなかった。設備は組合の運営費でまかなわれているので、今のジムよりはるかによかったけど。なんかボロいよ、この川越のジム。前のジムの競馬友とお別れもとても辛い。Yさんとの競馬を介したときめきタイムともおさらばだ。
平日は泳いで、土曜日はバレトンというエクササイズのクラスとヨガのクラスに出ることにしている。ヨガウエアもすぐ下の妹から着なくなったものをもらいうけた。ヨガは鏡でポーズのチェックしながらやるので、ゆったりしたTシャツなどより身体にフィットしてノースリーブのヨガウエアのほうがやりやすい。胸の谷間もちょっと見えたりして、露出狂の傾向がある私としてはウエアを着るだけで少しテンションがあがる。でも今回はエクササイズの話。
私は子供のときから正直成績優秀で運動もできた。トップということはないけど、常にトップクラスにいるタイプ。の、はずなんだけど、小さいときから右と左の区別がとっさにできなかった。小学校で先生に、
「わかったひとは右手を上げて」
と言われると、
(右・・・おはしを持つほうの手だな)
とワンクッション置かないと手が上がらなかった。みんなが上下の区別がつくように、とっさに右と左の区別がつくのに驚異を覚えた。これは大人になった今も、あまり改善されていない。こんな私が困るのが視力検査。上下は問題ないが、左右に切れ目があると見えていても、とっさにどちらか言えない。
(こいつ、あんまり見えてないのに頑張ってるなあ)
と思われるのもイヤなので、極力、
「え~と、コッチ」
と、指差しでやるようにしている。だから最新の視力検査機に初めて触れたときは感動した。顕微鏡みたいなのを覗きこんで、輪の切れ目の方向にひとりレバーでカチカチやるだけでいいなんて。まさに私が長年求めていたもの。
こんな私がアップテンポの曲に合わせて手足を動かすエクササイズのクラスに出るとどうなるか。まさに大混乱。先生に、
「右足を上げて、左手を前に」
などと言われると、すぐにあっぷあっぷ。鏡の前で先生が同じ方向を向いていれば、同じ動きができるけど、向かい合ったり横を向かれると、もうわからない。同じ動きを8回以上繰り返すのに、先生が途中で見本を止めるとすぐにわからなくなる。このクラスはわりに人気で込んでいるけど、見渡すと私より年配の人たちばかり。その先輩方のほうが動き自体は合っている。なぜだ。優等生で人生を送った私が、完全な劣等生。運動神経だって悪くないハズ。でも脳と四肢の指示系統が、周りの先輩方と比べると完全に不具合を起こしている。これって運動神経が鈍いってこと? んなバカな。ただダンスの才能がないことだけは認めます。絶対向いてない。身体が思うように動かない。このクラスは一ヶ月同じステップを続ける。さすがに四週目になると私でもだいぶ着いていけるようになるのだけど、慣れてきた頃に月が替わってもとの木阿弥。新しい動きの連続にまた大混乱に陥る。一時間のクラスで、終わる頃には身体じゃなくて脳がメロメロ。集中力なんて完全に費えている。オバちゃんたちすごいなあ、飲み込みが早くて。ノリコは落ちこぼれだよ。でも一生懸命やってるから、見捨てないでやってください、と体脂肪率がエラい低そうで姿勢のいい女の先生に心で叫ぶ。先生はバレエエクササイズのバカ講師みたいに、できなくて当然の生徒を鼻で笑うことなく気を使って、プロの講師です。あのバカバレエ講師め、てめえは狭い町のバレエスタジオに引っ込んで、できなくて当然の素人を小ばかにしながら狭い世界で笑っとけ。ここは一般市民用の健康増進のためのジムだぞ、勘違いすんな。あんなあからさまに感じの悪いやつ、久しぶりにみた。
新しいジムで顔見知りのオバサマができた。クラスのあとトイレで会って、
「今日、苦手なポーズあったでしょ」
と言われた。違うんです、ポーズが苦手なんじゃなくて、右と左の区別が、手と足でそれぞれ動きが違うことを同時にやるのを習得するのがノロいんです、と説明する暇もなく。知り合いがいないうちはひとりでノビノビ劣等生をやれたので、ああいうクラスでは知り合いができるのは考え物だ。
「月曜日のクラスのほうが簡単よ」
余計なお世話。今度はうしろのほうの場所でやろう。バレトンはできないなりに楽しい。ちなみにエアロビクスはダメだった。やっててどんどん行為から疎外されていく自分を感じた。やりながら自分の表情も動きも死んでいっているのがわかった。ああいう「イエーイ」みたいなノリ、恥かしくって、ありえないよ。
ちなみに動きがゆっくりしたヨガのクラスでは、楽しくいろんなポーズをとっています。簡単なことを何度も繰り返して、精度を上げていく。そういうのが性にあってんのよ、私。よく、
「私、飽きっぽいから」
というひとがいるが、私が飽きっぽくないのは間違いない。何事も一度軌道に乗ると、なかなかやめないし、やめられない。こういう性格も、いいような、悪いような。
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